行動経済学 — 判断のヒューリスティックと信念のバイアス
行動経済学 — 確率を計算せず、似ているかどうかと思い浮かびやすさで判断する
第2–4章では、選好が標準モデルとどう違うかを扱った。この章では信念を扱う。標準モデルは、人々が新しい情報をベイズの規則で正確に反映すると仮定する。トベルスキーとカーネマンは、人々が複雑な確率計算の代わりにいくつかのヒューリスティックに頼り、そのヒューリスティックが予測可能な方向に誤ることを示した。
1. 代表性と基準率の無視
ある病気の有病率は1%である。検査は患者の90%を陽性と判定し、健康な人の9%も誤って陽性と判定する。陽性の判定を受けた人が実際に病気である確率は。
多くの人(医療従事者を含む)が90%に近い答えをする。「陽性の結果が患者にどれだけ似ているか」(検査の正確さ)だけを見て、基準率(有病率1%)を無視するからである。この判断のしかたを代表性ヒューリスティックという。
代表性は、ほかの誤りも生む。
- 連言錯誤:「リンダは哲学を専攻し、社会正義に強い関心をもっていた」という説明を聞いて、「リンダは銀行員である」より「リンダは銀行員であり、フェミニスト運動家である」のほうが可能性が高いと答えた割合は85%だった。二つの事象の同時確率は、どちらか一方の事象の確率より大きくなりえない。
- ギャンブラーの誤謬:コインが5回続けて表なら、次は裏が出そうに思える。小さな標本も母集団に似ているはずだという信念(少数の法則)である。
- ホットハンドの信念:逆に、連続した成功を実力の証拠として過大に解釈する。ただしバスケットボールのホットハンドについては、その後統計手法を正した研究で弱い実際の効果があるという結果も出ており、連続についてのすべての信念が誤りではないことも覚えておくべきである。
2. 利用可能性
事象の頻度を、思い浮かべやすさで判断するのが利用可能性ヒューリスティックである。飛行機事故やサメの襲撃のように鮮明で報道の多い事象のリスクは過大評価され、糖尿病や転倒のようにありふれているがドラマチックでないリスクは過小評価される。
経済的な結果は保険と投資に現れる。洪水の直後に洪水保険の加入が増え、数年後に解約が増えるパターン、最近急騰した資産に資金が集まるパターンは、利用可能性と整合する。
3. アンカリングと調整
最初に提示された数字(アンカー)から出発して調整するが、調整が十分でない。トベルスキーとカーネマン(1974)の実験では、参加者は目の前で回した数字盤の結果(10または65)を見た後、国連加盟国に占めるアフリカの国の割合を推定した。10を見た集団の推定の中央値は25%、65を見た集団は45%だった。無関係な数字が推定を引き寄せたのである。
経済的には、交渉の最初の提示額、小売の「定価」、年俸交渉での以前の年俸がアンカーとして働く。値引き前の価格を表示することが販売を増やす理由の一つである。
4. 過信
| 形 | 内容 | 経済的な結果 |
|---|---|---|
| 過大推定 | 自分の能力・成果を実際より高く見る | 起業の過剰、過剰な取引 |
| 過大配置 | 自分は平均より優れていると信じる | 運転技術の調査で大多数が「平均以上」 |
| 過大精度 | 自分の予測の不確実性を過小評価する | 90%信頼区間が実際にはずっと頻繁に外れる |
過大精度は較正テストで測ることができる。多くの質問に「90%確信できる範囲」を答えさせると、よく較正された人は10問中9問を当てるはずである。企業の財務担当者による株式収益率の予測の研究などでは、実際の的中率はこれよりずっと低く出る。第8章で、過信が過剰な取引につながる証拠を見る。
5. 確証バイアス
すでにもっている信念を支持する情報は探して大きく反映し、反対の情報はあまり探さず割り引いて反映する。同じ証拠を見た二人が、それぞれ元の信念をより強くもつようになる態度の極性化がその結果である。ベイズ更新では、同じ証拠は二人の信念を同じ方向に動かすはずである。
確認問題
ある都市のタクシーの85%が緑、15%が青である。事故の目撃者は青いタクシーを見たと証言し、目撃者の色の識別の正確さは80%である。実際に青いタクシーだった確率は。である。証言の正確さ80%だけを見ると過大評価し、基準率15%を入れると、緑のタクシーだった確率のほうがなお高い。
参考資料
- Amos Tversky and Daniel Kahneman, “Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases,” Science (1974)
- Amos Tversky and Daniel Kahneman, “Extensional versus Intuitive Reasoning: The Conjunction Fallacy in Probability Judgment,” Psychological Review (1983)
- Don Moore and Paul Healy, “The Trouble with Overconfidence,” Psychological Review (2008)
- Gerd Gigerenzer and Ulrich Hoffrage, “How to Improve Bayesian Reasoning without Instruction: Frequency Formats,” Psychological Review (1995)
OIYO編集部
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