財政学 — 市場の失敗と政府の役割
財政学 — 市場が失敗するところと政府が失敗するところ
財政学は、政府が何をすべきか、そしてその費用を誰からどのように集めるべきかを問う。どちらの問いも同じ基準から出発する。市場は自ら効率的な配分に至るのか、至らないなら政府が直せばよりよくなるのか。
1. 厚生経済学の二つの定理が基準線である
第1定理:完全競争市場の均衡はパレート効率的である。誰かを悪くすることなしには、誰もよくすることができない状態である。前提は、価格受容者、完備な市場、外部性がないこと、完全情報である。
第2定理:選好と技術が凸であれば、望むパレート効率的な配分は、初期保有を再分配したうえで市場に任せることで達成できる。効率と公平を切り離して扱えるという意味である。
二つの定理は、政府介入の根拠を二つに分ける。第1定理の前提が崩れるところ(市場の失敗)は効率の根拠であり、効率的であっても分配が受け入れられないところは公平の根拠である。ただし第2定理が求める「一括の再分配」は現実にはほとんどない。実際の再分配は所得税のように行動を変える税で行うので、効率費用が伴う。これが第2章と第4章の主題である。
| 前提 | 崩れる場合 | 財政学で扱うところ |
|---|---|---|
| すべての財に市場がある | 公共財、外部性 | この章 |
| 価格受容者 | 自然独占 | この章の第4節 |
| 完全情報 | 逆選択、モラルハザード | 第3章・第8章 |
| 一括の再分配が可能 | 実際の税は行動を変える | 第2章・第4章 |
2. 公共財は限界便益を垂直に足す
公共財は非競合性(ある人の消費が他の人の消費を減らさない)と非排除性(お金を払わない人を締め出しにくい)をもつ。国防、基礎研究、洪水防止が典型である。非競合的だが排除可能な財(有料放送、空いている有料道路)はクラブ財、競合的だが排除が難しい財(漁場、地下水)は共有資源である。
私的財は同じ価格で数量を足すので、需要曲線を水平に合計する。公共財は全員が同じ数量を消費するので、同じ数量で各人の限界便益を垂直に足す。
2人の住民A、Bが街灯の数から得る限界便益が、(万ウォン)で、街灯1本の限界費用が10万ウォンだとしよう。ではなので、効率的な数量はからである。
各自が勝手に設置するとどうなるか。Aは自分の限界便益が10万ウォンを超えるところまで、すなわちから2本を立てる。Bは最初の街灯でも限界便益が8万ウォンなので1本も立てず、Aの街灯をただで使う。私的供給の2本は効率的数量の5本より少ない。この差がフリーライド(ただ乗り)である。
ΣMBは二つの曲線を同じQで上に積み重ねたものである。Q=8でBの限界便益が0になり、折れ曲がる。
政府がサミュエルソン条件をそのまま使えないのは、を知らないからである。尋ねれば、ただ乗りしようとする人は便益を低く言い、税と無関係だと信じる人は高く言う。各人の限界便益に比例して負担を分けるリンダール均衡は効率的だが、同じ情報の問題を抱えている。現実の公共財の数量は、投票と予算過程(第3章・第9章)で決まる。
3. 外部性は価格から抜け落ちた費用である
生産や消費が取引の当事者でない人に費用(負の外部性)や便益(正の外部性)を与えると、市場価格は社会的費用をすべては反映しない。
ある工場の私的限界費用が、汚染の限界外部費用が1単位当たり、需要がだとしよう。
- 市場均衡: → 、
- 社会的最適: → 、
市場は、社会的費用(70)が便益(60)を上回る35〜40単位まで生産する。その区間の純損失が死荷重である。
影の三角形が死荷重25である。1単位当たり10の税を課すと、MPCがMSCまで上がり、Q=35になる。
ピグー税は、最適数量での限界外部費用に等しい税である。この例では1単位当たり10である。税がかかると企業は外部費用を自分の費用として感じ、自ら35単位を選ぶ。政府が企業ごとの削減費用を知らなくてよい点が、数量規制に比べて有利である。逆に限界外部費用を見誤れば、税率も誤る。外部費用が不確実で、被害がしきい値を超えると急増する場合には、総量を決めて排出権を取引させる方式のほうが安全なことがある。
コースの定理:財産権が明確で取引費用がなければ、権利を誰に与えても当事者の交渉によって効率的な数量に至る。権利の配分は、誰がお金を払い誰が受け取るか(分配)だけを変える。上の例で住民がきれいな空気の権利を持てば、工場は35単位までは補償して生産するほうが得であり、工場が権利を持てば、住民がお金を払って40から35に減らしてもらうほうが得である。被害者が数千人いれば、交渉費用とただ乗りのためにこの結論は成り立たない。コースの定理は政府が不要だという主張ではなく、取引費用が政府介入の必要性を決めるという主張である。
4. 自然独占と情報の非対称性
平均費用が市場全体の需要の範囲で下がり続けるなら、1社が供給するのが最も安い。送電網や上水道がそうである。独占価格は過少生産を生み、価格を限界費用に合わせるよう規制すると平均費用を下回って損失が出る。そのため、平均費用価格規制、二部料金(基本料+使用料)、公企業による運営の間で選ぶことになる。
情報の非対称性は保険市場で最もはっきり現れる。保険会社がリスクを見分けられなければ、平均的な保険料が低リスクの人を追い出し(逆選択)、加入後は注意する誘因が減る(モラルハザード)。強制加入の社会保険が登場する理由であり、第8章で再び扱う。
5. 政府も失敗する
市場の失敗は介入の必要条件であって十分条件ではない。政府の介入は次の理由で失敗しうる。
| 源泉 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 情報不足 | MB・MEC・費用曲線を知らない | ピグー税率の過大・過小推定 |
| 誘因の問題 | 政治家・官僚の目標が社会厚生と異なる | 予算の最大化、選挙周期に合わせた支出 |
| レントシーキング | 規制が生む利得を得ようと資源を使う | 許認可・補助金のロビー活動 |
| 執行費用 | 徴税・監視・行政の費用 | 複雑な減免制度 |
確認問題
住民3人の公園の限界便益がそれぞれ、、(万ウォン、負になれば0)で、限界費用が30万ウォンである。効率的な数量は。ではなのでである。このとき3人目の住民の限界便益は0になり、境界にかかる。1人目の住民だけなら、から1単位もつくらない。
参考資料
- Jonathan Gruber, Public Finance and Public Policy, ch. 5–7
- Harvey Rosen and Ted Gayer, Public Finance, ch. 3–5
- Paul Samuelson, “The Pure Theory of Public Expenditure,” Review of Economics and Statistics (1954)
- Ronald Coase, “The Problem of Social Cost,” Journal of Law and Economics (1960)
OIYO編集部
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