経済学•第6章•約2分•最終更新 2026年9月24日

財政学 — 財政政策:乗数・リカードの等価定理・政府債務の動学

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OIYO編集部寄稿者
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財政学 — 財政政策は今日の需要と明日の税を同時に動かす

前の章では、税と支出が個々の市場の選択をどう変えるかを見た。この章ではマクロの側を見る。政府支出と税を変えると総需要がどれだけ動くのか、その財源が借入なら債務がどのような軌跡をたどるのかである。モデルのマクロ的な背景はマクロ経済学のIS-LMの章にある。

1. 乗数は漏出が決める

価格が固定され利子率が変わらない最も単純なモデルでは、消費は可処分所得の一定割合cc(限界消費性向)である。政府支出が1増えると所得が1増え、そのうちccが再び消費されて所得を増やす過程が繰り返される。

単純な乗数
ΔYΔG=11−c,ΔYΔT=−c1−c\frac{\Delta Y}{\Delta G} = \frac{1}{1-c},\qquad \frac{\Delta Y}{\Delta T} = \frac{-c}{1-c}
c=0.8なら支出乗数は5、租税乗数は−4である。減税は最初の段階で一部が貯蓄されるので、支出より乗数が小さい。

支出と税を同じ額だけ増やせば(均衡予算)、二つの乗数の和1−c1−c=1\frac{1-c}{1-c}=1だけ所得が増える。これが均衡予算乗数1である。

現実の乗数が5よりずっと小さいのは、消費以外の漏出のためである。所得税率τ\tauと限界輸入性向mmを入れると次のようになる。

漏出を入れた乗数
ΔYΔG=11−c(1−τ)+m\frac{\Delta Y}{\Delta G} = \frac{1}{1-c(1-\tau)+m}
c=0.8、τ=0.25、m=0.2なら1/(1−0.6+0.2)=1/0.6≈1.67である。税と輸入が各段階で所得の増加分を吸収する。

同じ漏出が自動安定化装置である。景気が悪化して所得が減ると、累進所得税の納付額がより速く減り、失業給付の支出が増えて、議会の決定がなくても可処分所得の低下を和らげる。所得税率τ\tauが高いほど乗数が小さいということは、逆に民間のショックが所得に波及する度合いも小さいという意味である。

2. 乗数をさらに小さくする経路

乗数を小さくする経路
経路働き弱まる条件
金利によるクラウディング・アウト政府の借入が金利を上げ、民間投資が減る金利が下限に張り付くか、中央銀行が金利を固定するとき
為替によるクラウディング・アウト金利上昇・資本流入が通貨を増価させ、純輸出が減る固定相場制、資本規制
リカードの等価定理家計が将来の税を予想して貯蓄を増やす流動性制約、近視眼、短い視野
供給制約完全雇用の近くで物価が上がる遊休設備・失業が大きいとき

実証推定値はおおむね0.5から2の間に散らばっており、景気後退期や金利の下限期には大きく出る傾向がある。乗数に一つの「正解」があるのではなく、金融政策の反応と景気の状態によって異なる値になる。

3. リカードの等価定理:債務は将来の税である

政府が今日税を100減らして国債100を発行し、来年元利合計100(1+r)100(1+r)を税として集めるとしよう。将来の税の現在価値はちょうど100である。家計がそれを知って生涯予算にもとづいて消費するなら、減税で増えた100をすべて貯蓄して来年の税に備える。消費は変わらず、民間貯蓄の増加が政府貯蓄の減少をちょうど相殺する。

この結論には強い前提が必要である。

  • 家計が借入制約なしに、生涯所得で消費を平準化する。
  • 将来の税を払う人が今減税を受ける人と同じか、子どもの世代を利他的に考慮する。
  • 税が一括税である(歪みのある税なら、税の時期が行動を変える)。

流動性制約のある世帯の比重が大きいほど、税負担が次の世代に移るほど、等価定理は弱くなる。それでもリカードの等価定理は、「借入で賄う支出はただだ」という錯覚を正す基準点の役割を果たす。

4. 債務比率はrとgの勝負である

GDP比の債務比率bb、基礎的財政収支(利払いを除く収支)の黒字比率ss、実質利子率rr、実質成長率ggがあれば、債務比率は次のように動く。

債務比率の動学
Δb≈(r−g) b−s\Delta b \approx (r-g)\,b - s
利子が債務を大きくし、成長が分母を大きくする。債務比率を維持する基礎的収支はs* = (r−g)bである。

債務比率50%でr=3%r=3\%、g=4%g=4\%なら、(r−g)b=−0.5(r-g)b=-0.5%ポイントである。基礎的収支がGDPの0.5%の赤字でも、債務比率は変わらない。逆にr=5%r=5\%、g=3%g=3\%なら(r−g)b=1(r-g)b=1%ポイントなので、債務比率を維持するにはGDPの1%の基礎的黒字が必要である。同じ50%の債務でも、金利と成長の環境によってまったく異なる負担になる。

債務比率の経路(b₀ = 50%、基礎的収支0)
年 b (%) 20 5074 r − g = +2%pt r − g = 0 r − g = −1%pt

基礎的収支が均衡していても、rがgより2%ポイント高ければ20年後の債務比率は約74%になる。計算はb(t) = 50 × (1 + (r−g))^tの近似である。

財政ルールは、この動学に歯止めをかける規則である。債務の上限(例:GDP比60%)、財政収支の上限、支出の伸び率の上限がある。支出ルールは景気によって自動的に変わる歳入に手をつけないので自動安定化装置を生かし、収支ルールは景気が悪いときに緊縮を強いる危険があるので、景気調整済み収支を使ったり例外条項を設けたりする。

確認問題

限界消費性向0.75、所得税率0.2、限界輸入性向0.1の経済で、政府支出10兆ウォン増加の効果は。乗数は1/(1−0.75×0.8+0.1)=1/0.5=21/(1-0.75\times 0.8+0.1)=1/0.5=2なので、所得は20兆ウォン増える。増えた所得から税収が0.2×20=40.2\times 20=4兆ウォン増えるので、財政赤字は10兆ウォンではなく6兆ウォン増える。

参考資料

  • Olivier Blanchard, Macroeconomics, ch. 3, 22
  • Robert Barro, “Are Government Bonds Net Wealth?,” Journal of Political Economy (1974)
  • Valerie Ramey, “Ten Years After the Financial Crisis: What Have We Learned from the Renaissance in Fiscal Research?,” Journal of Economic Perspectives (2019)
  • IMF, Fiscal Monitor(年次報告書)
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OIYO編集部

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