経済学•第1章•約1分•最終更新 2026年9月24日

行動経済学 — 標準モデルのどこがずれるのか

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OIYO編集部寄稿者
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行動経済学 — 「人は非合理的だ」より正確な主張

行動経済学を「人は非合理的だ」とまとめてしまうと、使えるものはほとんど残らない。より正確なまとめはこうである。標準的な経済モデルは選好、信念、選択の過程について具体的な仮定を置いているが、そのうちの一部が体系的に、予測可能な方向にずれる。ずれる方向がわかればモデルを直すことができ、直したモデルは標準モデルとは異なる予測と政策を導く。

1. 標準モデルの三つの仮定

ミクロ経済学の消費者は次のように選択する。

標準モデルの選択
max⁡x  ∑t=0Tδt∑sps u(xt,s)\max_{x}\; \sum_{t=0}^{T} \delta^{t} \sum_{s} p_s\, u(x_{t,s})
結果に対する効用u(選好)、状態sの確率p_s(信念)、指数的割引δ^t、そしてこの問題を正確に解くという仮定(選択過程)が含まれている。

この式には、少なくとも三つの仮定が含まれている。

  • 選好:効用は最終的な結果(富の水準、消費量)だけに依存し、自分の結果だけを気にかけ、時間について一貫して割り引く。
  • 信念:確率をベイズの規則に従って正確に更新する。
  • 選択の過程:与えられた選好と信念で最適解を正確に計算し、問題をどのように提示されても同じ答えを選ぶ。

行動経済学の主な発見は、この三つの仮定のそれぞれに対応している。

講座の地図
修正する仮定代表的な概念この講座の章
選好:結果の水準参照点、損失回避第2・3章
選好:時間的整合性現在バイアス、β-δ割引第4章
信念:ベイズ更新代表性・利用可能性ヒューリスティック、過信第5章
選択の過程:代替可能性心の会計、サンクコスト第6章
選好:利己性不平等回避、互恵性第7章
応用行動ファイナンス、選択アーキテクチャ第8・9章
方法と限界再現性、行動厚生経済学第10章

2. 限定合理性

サイモンは、人は最適化するのではなく満足化すると考えた。すべての代替案を比べる代わりに、十分によい案が出てきたところでやめる。情報を集めて計算するのに費用がかかるからである。この観点からは、ヒューリスティック(簡便な判断ルール)は欠陥ではなく、限られた認知資源に対する合理的な対応である。

行動経済学が関心を寄せるのは、ヒューリスティックが体系的に誤るところである。ランダムな誤りは平均では打ち消し合うが、体系的な誤りは市場全体で積み重なり、予測可能なのでモデルに組み込むことができる。

3. 証拠はどこから来るのか

行動経済学の証拠
方法長所弱点
実験室実験変数を統制し、因果を切り分ける学生のサンプル、小さな賭け金、人為的な状況
フィールド実験実際の環境での無作為割り当て費用が大きく、メカニズムの区別が難しい
自然実験・観察データ大きな賭け金と実際の決定別の解釈を排除しにくい

たとえば、確定拠出年金の自動加入(第9章)の証拠は、ある企業が制度を変えた前後の新入社員の加入率を比べた観察研究から得られた。賭け金が大きく、結果が実際の貯蓄なので、実験室実験より説得力がある。逆に、純粋な不平等回避を測るには、評判や繰り返しの取引のない実験室のゲーム(第7章)のほうが適している。

4. 逸脱があっても標準モデルを捨てない理由

標準モデルは依然として基準線である。行動経済学のよいモデルは、標準モデルを特殊な場合として含んでいる。第4章のβ-δモデルはβ=1\beta=1のとき、第7章の不平等回避モデルは不平等の係数が0のとき、標準モデルに戻る。こうすれば逸脱の大きさを一つのパラメータで測り、データで検定できる。

市場がバイアスを是正するかどうかも検討しなければならない。反復的でフィードバックの速い決定(毎日の買い物)では、学習がバイアスを減らす。まれでフィードバックの遅い決定(老後の貯蓄、住宅の購入、結婚)では、バイアスが長く残る。行動経済学の発見が政策的に最も重要なのが後者の領域である理由である。

確認問題

「人々が宝くじを買うのは非合理的だ」という主張を、標準モデルの三つの仮定に照らして書き直すと。宝くじの購入は、リスク愛好的な選好(選好)、当選確率の過大評価(信念)、小さな確率を過大に重みづける意思決定の過程(第3章の確率加重)のどれからでも説明できる。どの仮定がずれたかによって、予測と政策が変わる。確率を過大評価しているなら情報提供が効くが、確率加重のためなら、情報提供だけでは行動はあまり変わらないという予測になる。

参考資料

  • Nick Wilkinson and Matthias Klaes, An Introduction to Behavioral Economics, ch. 1
  • Herbert Simon, “A Behavioral Model of Rational Choice,” Quarterly Journal of Economics (1955)
  • Stefano DellaVigna, “Psychology and Economics: Evidence from the Field,” Journal of Economic Literature (2009)
  • Richard Thaler, Misbehaving: The Making of Behavioral Economics (2015)
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