国際貿易論 — 重力モデルとグローバル・バリューチェーン
国際貿易論 — 誰が誰と取引するかは、比較優位だけでは決まらない
第1〜4章では、なぜ貿易が利益になるのか、関税が誰の余剰を動かすのかをモデルで解いた。実際の二国間貿易のデータは、それより単純な規則に近い。大きな国同士、近い国同士ほど多く取引する。そのうえ中間財が国境を何度も越えると、総額の輸出は付加価値輸出から離れていく。
1. 重力方程式は質量と距離の比喩である
対数をとるととなる。実証では、は1の近く、距離の弾力性は0.7〜1.5あたりがよく出る。GDPが2倍の相手国とは貿易額がほぼ2倍になり、距離が2倍になれば貿易額は大きく減る、ということである。
この式で「距離が原因だ」と主張するには、多角的抵抗(ほかの市場がどれだけ近いか)を制御しなければならない。韓国とチリの貿易は、二国間の距離だけでなく、韓国が中国・米国市場にどれだけ近いかによっても変わる。アンダーソンとファン・ウィンクープが指摘した点である。
距離が1,000kmと2,000kmで弾力性が1なら、ほかの条件が同じとき貿易額は半分になる。関税10%が貿易費用をその分だけ上げるかどうかは代替の弾力性と通関費用によるので、距離の係数と同じ数字ではない。
2. 総額の輸出は中間財を何度も数える
韓国が半導体を設計し前工程を行い、海外で組み立てた後に再輸入して携帯電話に組み込めば、同じ付加価値が輸出統計に繰り返し計上される。総額ベースの輸出/GDPは開放度を誇張しうる。
| 測定 | 捉えるもの | 見落とすもの |
|---|---|---|
| 総額の輸出 | 国境を越える金額のすべて | 輸入中間財の比率 |
| 付加価値輸出 | 国内で新たに生み出された価値 | 一部の資料の時差・産業分類 |
| 中間財の比率 | GVC参加の深さ | 誰が利潤を得るのか |
100ドルの輸出品のうち輸入中間財が60ドルなら、国内の付加価値は40ドルである。総額で見た輸出依存度は100/GDP、付加価値で見れば40/GDPである。中間財に関税がかかると実効保護率が最終財の関税と異なるという点は、第3章につながる。
3. 重力とGVCが政策の文をどう変えるか
遠い市場に対する関税引き下げは、すでにサプライチェーンでつながっている隣国の関税引き下げとは効果が異なる。原産地規則は、名目関税よりも参加するかどうかを左右しうる。「比較優位のある産業を育てれば輸出が増える」という文は、その産業がどの段階の付加価値を担うのかまで書いて初めて完成する。
この科目は、比較優位、要素賦存、貿易政策、数理の例題、実証のパターンを学部の国際貿易論の骨格とする。戦略的貿易政策と企業の異質性(メリッツ・モデル)は、この5章が扱わないテーマである。
確認問題
韓国の総額の輸出がGDPの40%、輸出に占める輸入中間財の比率が50%なら、付加価値輸出/GDPはおよそいくらか。0.40×0.50=0.20である。産業ごとに中間財の比率が異なれば、この積は近似にすぎない。
参考資料
- James Anderson and Eric van Wincoop, “Gravity with Gravitas,” American Economic Review (2003)
- OECD, Trade in Value Added (TiVA)
- WTO, World Trade Report
Oiyo
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