マクロ経済学 — 学派の争点は仮定の束である
マクロ経済学 — 学派の名前は仮定の束の愛称である
マクロ経済学の論争は、しばしば「ケインズ対古典派」のように学派の対決として紹介される。しかし各学派の結論は、いくつかの仮定をオンにしたりオフにしたりした結果である。仮定を知れば、学派の名前なしでも結論を予測でき、新しい状況でどの結論が当てはまるかを判断できる。
1. 三つのスイッチ
マクロモデルの結論を分ける仮定は、大きく三つある。
| 仮定 | オンなら | オフなら |
|---|---|---|
| 価格・賃金の伸縮性 | ショックが価格で吸収され、産出は潜在水準を保つ | 産出と雇用が需要ショックに反応する(ギャップが生じる) |
| 合理的期待 | 予想された政策はすぐ期待に反映される | 期待がゆっくり追いつき、短期の効果が長い |
| 政策ルールの公表 | 体系的な政策は予想され効果がない | 予想外の政策だけが効く、信認の問題 |
2. 学派別の仮定と結論
| 学派 | 中核の仮定 | 景気変動の原因 | 政策的含意 |
|---|---|---|---|
| 古典派 | 価格の伸縮性、セイの法則 | 主に実物的要因 | 貨幣の中立性、介入不要 |
| ケインズ派 | 価格・賃金の硬直性、有効需要 | 総需要の変動、期待(アニマル・スピリッツ) | 財政・金融で安定化 |
| マネタリズム | 短期の非中立性、長期の中立性、適応的期待 | 通貨量の不安定 | 通貨量増加率のルール |
| 新しい古典派 | 価格の伸縮性、合理的期待 | 予想外の貨幣ショック | 予想された政策は無効、ルール |
| 実物的景気循環(RBC) | 価格の伸縮性、合理的期待、技術ショック | 生産性ショック | 変動は効率的な反応、安定化は不要 |
| ニューケインジアン | 合理的期待+価格の硬直性+不完全競争 | 需要・供給ショックの両方 | 短期の安定化は有効、長期は中立、信認が重要 |
ニューケインジアンは価格の硬直性を「ただ仮定する」のではなく、ミクロ的に説明する。価格を変えるのにかかる小さな費用(メニュー・コスト)も経済全体では大きな厚生損失を生みうるし、企業がそれぞれ異なる時点で価格を変えれば(価格設定の時差)、全体の物価はゆっくり動く。今日の中央銀行が使う標準モデルは、RBCの方法(最適化する主体、合理的期待)にニューケインジアンの硬直性を加えたニューケインジアンDSGEモデルであり、第13章の損失関数とテイラー・ルールもその上で議論される。
3. 証拠は何を語るか
金融政策が産出に影響するかどうかは、政策の変化が経済状況への反応であるために識別が難しい(利上げの理由が、すでに景気が過熱していたからかもしれない)。研究者は、中央銀行の議事録から経済見通しと無関係な政策変更を選び出したり、政策発表直後の数分間の市場金利の変化を使ったりして、金融政策のショックを識別した。こうした研究はおおむね、予想外の引き締めが1〜2年のラグをおいて産出を減らし、その効果が数年かけて消えるという結果を示した。短期の非中立性と長期の中立性の両方と整合する証拠である。
4. 金融危機以後
2008年の金融危機は、従来の標準モデルが金融部門をほとんど含んでいないという弱点を露わにした。その後、モデルは二つの方向に拡張された。
- 金融摩擦:銀行資本と担保制約がショックを増幅する経路(第18章)
- 異質な主体:代表的家計一つの代わりに所得や資産の異なる家計を入れ、流動性制約のある家計の高い限界消費性向が財政・金融政策の効果をどう変えるかを分析する(HANKモデル)
確認問題
名目賃金が1年単位で契約される経済で、中央銀行が予告なくインフレ率を3%ポイント高めた。初年度の産出はどうなるか。価格伸縮性のスイッチがオフなので、契約期間中は実質賃金が約3%下がり、企業が雇用を増やして産出が潜在水準を上回る。翌年の契約が新しい物価を反映すると、実質賃金が元に戻り、産出も潜在に戻る。同じ政策を事前に公表していれば、初年度の契約にすでに反映され、産出への効果は小さい。
参考資料
- Robert Lucas, “Econometric Policy Evaluation: A Critique,” Carnegie-Rochester Conference Series (1976)
- Christina Romer and David Romer, “A New Measure of Monetary Shocks: Derivation and Implications,” American Economic Review (2004)
- Jordi Galí, Monetary Policy, Inflation, and the Business Cycle, ch. 1–3
- N. Gregory Mankiw, Macroeconomics, ch. 14–15
Oiyo
編集部OIYO編集部は、経済・法律・生活・自己理解のテーマを一次資料と公開統計で検証してまとめます。すべての記事は出典を明記し、定期的に見直して正確さと実用性を保ちます。